かかりつけの先生から「がんかもしれない」と告げられたあの日、私は一度、自分の中で静かに覚悟を決めていました。
このまま家で、できるだけ穏やかに過ごさせてあげよう。
最期まで、住み慣れた場所で見守っていこう。
そう思っていたはずでした。
けれど、先生に背中を押されて、私はもう一度だけ“希望”に手を伸ばすことにしました。
まだ少しでも動けるうちに。
今なら、何か間に合うかもしれない。
そう信じて選んだのが、大学病院での精密検査でした。
けれどその日、私たちを待っていたのは、想像よりもずっと厳しく、そして残酷な現実でした。
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🌨️ 大学病院の前日、急に崩れた愛犬の容態
幸運なことに、大学病院の予約は奇跡のように取れていました。
それは、私自身の入院前、ぎりぎり間に合うタイミングでした。
だからこそ私は、指折り数えるような気持ちでその日を待っていました。
当時のゴルは、まだなんとか自分の足でトイレに行くことができていて、食欲もほんの少しだけ残っていました。
もちろん元気とは言えません。
それでも私は、その小さな“まだ大丈夫かもしれない”を、必死に信じようとしていたのだと思います。
でも、その希望は、大学病院へ向かう前日に大きく揺らぎました。
食べられなくなった夜、眠ることすらできなかった姿
あんなに好きだった食べ物を、急に一切受けつけなくなったのです。
大好きなおやつも、いつもなら喜ぶものも、何ひとつ口にしようとしない。
それだけで、胸の奥がすっと冷えていくようでした。
そして夜になると、呼吸はさらに苦しそうになりました。
横になって眠ることもできず、座り込んだまま、荒く浅い呼吸を繰り返すばかり。
部屋の中には、今まで聞いたこともないような、高く太い嗚咽のような音が響いていました。
その音を聞いているだけで、胸が押しつぶされそうでした。
苦しいはずなのに、ゴルは私のそばから離れようとしませんでした。
むしろ、少しでも体を寄せるようにしてきて。
そのぬくもりが、余計に不安を大きくしていったのを覚えています。
「大丈夫だよ」と撫でながら、私の心の中では、もう“大丈夫じゃない”という現実が静かに広がっていました。
🌧️ もう諦めるべきか、それでも連れて行くべきか
そして迎えた、大学病院の当日。
朝になっても、ゴルの状態は明らかに悪化していました。
寝不足と衰弱で、立ち上がることすら難しい。
目の前にいるのに、昨日までの姿とはもう違って見えました。
せっかく取れた予約。
でも、ここまで悪くなっているのなら、もう移動させること自体が負担なのではないか。
「今日、連れて行くことは、本当にこの子のためになるのだろうか」
その迷いが、何度も何度も胸をよぎりました。
本当は、もう家で休ませてあげたほうがよかったのかもしれません。
あの子は、おうちにいたかったのかもしれない。
そう思わなかったわけではありません。
でも、それでも私は諦めきれませんでした。
もし、このまま何もせずに見送ることになったら。
「本当は何が起きていたのか」も、「少しでも楽にしてあげる方法があったのか」も、何もわからないまま終わってしまう。
その後悔だけは、どうしても残したくなかったのです。
🚗 雪道を越えてたどり着いた、最後の希望
家族の力を借りて、私はゴルを抱え、車に乗せました。
まだ外は暗い早朝。
大学病院までは、車で2時間以上かかる距離でした。
しかもその日は冬。
道には雪が残り、思った以上に時間がかかりました。
ナビに表示された予定時間は、とうに過ぎていました。
気づけば、3時間以上の道のりになっていました。
それでも不思議なことに、その日だけは空が晴れていたんです。
ずっと悪天候が続いていたのに、その日だけは、まるで何かに許されたように空が明るかった。
あの光景は、今でも忘れられません。
道中、私は何度も何度も後ろを振り返りました。
少しでも呼吸が苦しそうになっていないか。
少しでも様子が変わっていないか。
ただ、それだけを見続けながら、ようやく大学病院へたどり着きました。
でも、到着した時のゴルには、もう自力で歩く力は残っていませんでした。
担架で運ばれていくその姿を見た瞬間、胸の奥で何かが静かに崩れた気がしました。
🏥 大学病院で告げられた「あと数日」という現実
予約制だったこともあり、診察は比較的すぐに始まりました。
でも、そこで医師から告げられた言葉は、私の予想をはるかに超えて、厳しいものでした。
「よく、ここまで連れて来られましたね。非常に深刻な状態です」
そのひと言で、私はすべてを察しました。
正式な診断名は、悪性リンパ腫でした
正式な診断は、悪性リンパ腫。
しかも、すでに全身に転移していて、手の施しようがない状態でした。
さらに、肺のまわりには胸水もたまっていて、それが呼吸を苦しくさせていたのです。
「最悪、あと2〜3日。
もって、あと5日でしょう」
そう告げられた時、頭の中が一瞬、真っ白になりました。
あと数日。
その言葉はあまりにも短くて、あまりにも残酷で、すぐには現実として受け止めきれませんでした。
ここまで頑張って来たのに。
まだ若いのに。
どうしてこの子が、こんな苦しみを背負わなければならないのか。
いろんな感情が押し寄せてきて、ただ座っていることしかできませんでした。
でも、その一方で、心のどこかでは思っていたんです。
――やっぱり、ここへ来てよかった。と。
つらい現実だったとしても、ようやく“何が起きているのか”を知ることができた。
その事実だけは、確かに私の中に残りました。
🤍 帰るための処置。それでも、来てよかったと思えた理由
病院では、少しでもゴルを楽にするために、胸水を抜き、点滴の処置をしてもらいました。
その時、医師から言われた言葉が今でも忘れられません。
「これは、無事にご自宅に帰れるようにするための処置です」
つまり、それほどまでに状態は危うかったということでした。
“治すため”ではなく、“家に帰るため”。
その言葉の重さに、胸が締めつけられました。
私は、命の灯火がここまで小さくなっていたことを、その時あらためて思い知らされたのです。
それでもゴルは、長距離移動にも、検査にも、処置にも、最後まで耐えてくれました。
本当はしんどくてたまらなかったはずです。
本当は、おうちで静かにしていたかったかもしれない。
それでも、あの子は私の選択に、黙って付き合ってくれました。
その姿を思い出すたびに、今でも胸がいっぱいになります。
でも私は、大学病院へ行ったことを後悔していません。
なぜなら、処置を終えたゴルは、ほんの少しだけ呼吸が楽になったからです。
あんなに苦しそうだった呼吸が、少しずつ静かになっていった。
そして家に帰ったあと、ゴルは私の横で、穏やかな寝息を立てて眠ってくれました。
その寝息を聞いた時、私は心の奥でようやく少しだけ息ができた気がしました。
「この子を連れて来てよかった」
その答えをくれたのは、医師の言葉ではなく、ゴル自身だったのだと思います。
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🕯️ 愛犬は、最後の時間まで私を強くしてくれた
来月から始まる、私自身の入院。
その時、私はゴルの最期を看取ることができるのか。
今の時点では、まだ何もわかりませんでした。
未来を思うと、不安しかありませんでした。
でも、先のことを嘆いてばかりいても、この子と一緒にいられる“今”は、容赦なく過ぎていきます。
だから私は、その日から先のことを考えすぎるのをやめて、ただ目の前の時間を大切にすることにしました。
苦しそうだった呼吸が少し落ち着いて、私の横で静かに眠るゴルを見ながら、何度も思ったんです。
この子は、最後の最後まで、私を強くしてくれている。と。
本当は、守ってあげる側のはずなのに。
支えているつもりでいたのに。
気づけば私は、何度もこの子に心を支えられていました。
言葉はなくても、ちゃんと伝わるものがある。
愛犬との時間は、そのことを何度も教えてくれます。
🌸 この記事のまとめ
大学病院で告げられた現実は残酷でした。それでも、愛犬を自宅へ連れて帰るための処置を受け、残された時間を一緒に過ごす道を選べたことに意味がありました。
この記事のまとめ
- 急変時は自己判断せず、受診先へ連絡して移動の可否を確認する
- 診断と余命は個体ごとに異なり、治療目標を獣医師と共有する
- 治すことだけでなく、穏やかに帰宅し過ごすための医療もある
よくある質問
悪性リンパ腫の治療や余命は、どの犬も同じですか?
いいえ。病型、進行度、全身状態などで異なります。本記事は一例であり、診断や見通しは担当の獣医師へご確認ください。
容態が悪い時、遠方の病院へ連れて行くべきですか?
移動の負担と得られる医療を個別に判断する必要があります。まずかかりつけ医や受診先へ連絡し、移動方法を含めて指示を受けてください。
終末期に自宅でできることはありますか?
痛みや呼吸、食事、排泄、寝床などについて獣医師と相談し、苦痛を減らす計画を立てます。急変時の連絡先も事前に確認してください。
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大型犬との日々【第12話】自宅での酸素療法。消えゆく命を抱きしめて、私たちが交わした魂の約束※本記事は個人の体験です。病状や治療、費用、回復経過には個体差があります。診断・治療の判断は必ず獣医師へご相談ください。

