乳がん体験談【第14話】入院前の不安と、愛犬に託した小さな約束

人生の軌跡と体験談

久しぶりに訪れた大学病院の空気は、どこかひんやりとしていて、胸の奥まで冷えていくように感じられました。

この日は、いよいよ来月に迫った入院に向けての詳しい説明がある日。
ただ病院へ来ただけなのに、足取りは思っていた以上に重く、どこか逃げ出したいような気持ちさえありました。

渡された書類をひとつひとつ確認していくたびに、それまでどこか遠くに置いていたはずの「現実」が、少しずつ、でも確実に自分の中へ沈み込んでくるのを感じていました。

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入院準備が進むほど、頭の中は愛犬のことでいっぱいだった

この頃の私は、自分の入院や手術の準備を進めながらも、頭の中の大半を愛犬・ゴルちゃんのことが占めていました。

入院のために必要なものを揃えたり、説明を受けたり、今後の流れを確認したり。
本来なら自分の体と向き合わなければいけない時期なのに、気持ちはどうしても別のところへ引っ張られてしまうのです。

その頃から、私はこれまでにないほど深く沈むような気持ちになることが増えていきました。

もちろん、これまで一緒に暮らしてきたどの子も、大切な家族です。
でも、不思議なくらいゴルちゃんに対しては、他の子たちとはまた少し違う、特別な想いがありました。

それはきっと、まだ4歳にも満たない若さで、あまりにも過酷な現実を背負わせてしまったからなのだと思います。

「まだまだ一緒にいたい」
「もっともっと、あの無邪気ないたずらっ子の顔を見ていたい」

そう願わずにはいられないのに、目の前にいるのは、日に日に元気を失っていく姿でした。

昨日まで当たり前のようにあった日常が、少しずつ崩れていく。
その現実は、私の胸を静かに、でも確かに深くえぐっていきました。

14時の診察室で、現実味を帯びていく「患者としての私」

乳腺外科で名前を呼ばれたのは、14時を少し過ぎた頃でした。

週明けの月曜日ということもあり、待合室はかなり混雑していて、ただ待っているだけでもどっと疲れがたまっていくような空気でした。

けれど、数ヶ月待ち続けてようやく受けた術前検査では、新たな異常は見つかりませんでした。

それだけは、本当にありがたかったです。
今の私には、「これ以上何も増えない」という事実だけでも、十分すぎるほどの救いでした。

ただ、診察室で渡される書類の束や、何度も求められるサインは、別の意味で私を現実に引き戻しました。

ひとつひとつ説明を受け、同意欄に名前を書くたびに、少しずつ自分の自由が削られていくような、そんな感覚に襲われたのです。

病気になる前の私は、健康であることをどこか当たり前のように思っていました。

それが今では、数日前から風邪をこじらせて薬を飲み、手術前の体調管理に気を配りながら生活している。
ほんの少し前まで想像もしなかった「患者としての自分」が、いつの間にか現実になっていました。

体の弱さと向き合うことは、想像以上に心を削るものなのだと、この頃の私は何度も思い知らされていました。

予定通りに取った「ひとり時間」に託した、小さな希望

入院の日が決まり、その少し前に、私は近くの宿を予約していました。

ほんの短いひとり時間を過ごすための予定です。
もちろんそれを決めたのは、まだゴルちゃんがもう少し元気だった頃でした。

けれど状況が変わってからは、何度も何度も迷いました。

「やっぱりキャンセルしたほうがいいのかな」

スマートフォンの画面を開いては閉じ、予約画面を見つめてはため息をつく。
今このタイミングで家を空けることに、強い迷いがありました。

もし今そばを離れたら、後悔するかもしれない。
そんな思いが何度も胸をよぎりました。

でも、たとえその数日を一緒に過ごせたとしても、その先にはどうしても避けられない入院と手術が待っています。
一ヶ月近い空白の時間が、すでに決まってしまっているのです。

だから私は、あえてその予定を変えないことにしました。

それは、ある意味で自分への賭けでもありました。

「退院して、また必ずゴルに会う」

その未来を、まだ手放したくなかった。
だからこそ、当初の予定どおりに進むことに、小さな希望を託したかったのだと思います。

ひとりで過ごすその時間は、ただ気分転換をするためではなく、これからの自分に静かに覚悟を刻むための時間でもありました。

家を離れるまでの時間が、何より愛おしかった

理不尽な運命に打ちのめされて、気持ちは何度も沈みました。

でも、どれだけ苦しくても、現実から完全に目をそらすことはできません。

今の私にできることは、ただひとつ。
家を離れるまでのあいだ、ゴルちゃんと過ごせる時間を、何より大切にすることでした。

何気ない寝顔も、ふとした視線も、少しゆっくりになった足取りも。
それまでなら見過ごしてしまっていたような一瞬一瞬が、全部かけがえのないものに思えました。

一秒一秒を噛みしめるように過ごしながら、私は心のどこかでずっと願っていました。

「どうか、退院するその日まで」
「どうか、またこの子に会えますように」

未来がどうなるのかは、誰にもわかりません。
どんなに願っても、現実はときに残酷です。

それでも、これから先に待っている運命がどんなものであっても、私はそれを受け止めて生きていかなければいけない。

それが、残された者に課せられる現実なのだと、この頃の私は少しずつ理解し始めていました。

Rino’s Choice|心が揺れる日に、自宅で自分を落ち着かせてくれたもの

こういう時期は、病院にいる時間だけがつらいわけではありませんでした。

むしろ本当に苦しくなるのは、家に帰って静かになった瞬間や、ひとりで考え込んでしまう時間のほうだったように思います。

そんなとき、家の中に「少しだけ自分を落ち着かせてくれるもの」があるだけで、気持ちがやわらぐことがありました。

ここでは、そんなふうに自宅での時間を少し支えてくれたものを、やさしくご紹介します。

大型クッション|気持ちまで少しゆるめてくれる場所

何も考えたくない日や、ただぼんやり座っていたい日ってありますよね。

そんなとき、大きめのクッションがひとつあるだけで、体も気持ちも少し預けやすくなります。

ソファでも床でも、自分が一番落ち着く場所に置いて、ただ背中をあずけるだけ。
それだけでも、張りつめていた心がほんの少しやわらぐことがありました。

ちゃんと頑張るためではなく、頑張れない日を責めないために。
そういう“逃げ場”のような存在が、家の中にあることはとても大切だと感じました。

テーブル|気持ちを整える、小さな自分の居場所

家の中に、自分だけの小さな居場所があると、不思議と気持ちが落ち着くことがあります。

ノートを置いたり、飲み物を置いたり、何もせずにただ座ってみたり。
テーブルは、そんな「少し立ち止まるための場所」になってくれました。

病院や手術のことを考えて頭がいっぱいになった日ほど、こういう何気ない日常の景色に救われることがあります。

派手なものではなくていいから、自分がほっとできる空間を少しずつ整えていく。
それもまた、気持ちを守るためのひとつの方法なのかもしれません。

コーヒーセット|ひと息つく時間を、ちゃんと作るために

心がざわついているときほど、温かい飲み物をゆっくり飲む時間に助けられることがあります。

お気に入りのカップにコーヒーを淹れて、湯気を眺めながら深呼吸する。
たったそれだけのことなのに、「今ここに戻ってこられる」ような感覚がありました。

気持ちが沈んでいるときは、特別なことをしようとしなくていい。
ただ、自分が少し落ち着ける時間を用意してあげるだけで十分なのだと思います。

そういう小さな習慣が、先の見えない不安の中で、心をつなぎ止めてくれることもありました。

ひとりで抱えきれない夜に、頼っていい場所もある

自分自身の入院と手術、そして愛犬の病。
どれかひとつだけでも足がすくむような出来事が、あの頃は同時に押し寄せていました。

ふとした瞬間に涙が出そうになったり、誰にも言えない不安が胸いっぱいに広がったり。
そんな夜があっても、何もおかしいことではないのだと思います。

それだけ重たいものを、ひとりで抱えていたのだから。

オンラインカウンセリングという選択肢

もし今、気持ちがいっぱいで、誰にも言えずに苦しくなっているなら。
専門家に話を聞いてもらうという選択肢を知っておくことも、ひとつのやさしい支えになるかもしれません。

国家資格を持つ公認心理師などの専門家に、今の「きもち」をそのまま話せるオンラインカウンセリングサービスもあります。

言葉にならない不安や、整理しきれない感情を、そのまま受け止めてもらえる場所があるだけで、孤独の重さは少しだけ変わることがあります。

誰にも言えない夜ほど、ひとりで抱え込まなくていい。
そう思える選択肢があることを、必要な人にそっと届けられたらと思います。

※本記事は個人の体験談であり、特定のサービスを強く推奨するものではありません。ご利用を検討される場合は、ご自身の状況に合わせてご判断ください。

逃げないと決めたのは、未来の自分への約束だった

自分自身の入院、そして愛犬の病。
重なる試練の中で、私は何度も心が折れそうになりました。

それでも、「逃げない」と決めたのは、誰かに強く見せたかったからではありません。

ただ、自分の中でこれ以上、大切なものから目をそらしたくなかったのです。

宿をキャンセルしなかったことも、入院の準備を進めたことも、すべては未来の自分への約束でした。

退院して、またゴルちゃんに会う。
そのために、今をちゃんと越えていく。

そう決めることでしか、自分を支えられない日もありました。

苦しさの中にいたあの頃の私は、それでも小さな希望だけは、最後まで手放したくなかったのだと思います。

次回の記事へ

入院前の時間は、思っていた以上に静かで、そして残酷でした。

大切な愛犬にかけた言葉。
私を見送るあの子のまなざし。
そして、いよいよ手術室へ向かう直前の、あの夜の気持ち――。

次回は、運命の分岐点となった手術前夜について綴ります。

▶︎ 次回記事:
乳がん体験談【第15話】運命の分岐点。愛犬が命をかけて遺した「覚悟」と、独り向き合う手術前夜

この記事について

※本記事は私自身の体験をもとにした個人の記録です。病気や手術、心の揺れ、ペットとの暮らしの感じ方には個人差があります。ご自身やご家族、ペットの体調や治療については、必ず主治医・専門家・信頼できる獣医師にご相談ください。

※掲載している商品やサービスは、当時の暮らしや気持ちの流れの中でご紹介しているものです。特定の効果や結果を保証するものではありません。

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